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名古屋地方裁判所 平成8年(わ)520号 判決

裁判所書記官

和田薫

被告人

(一) 本店の所在地

愛知県豊橋市牟呂町字扇田八一番地

法人の名称

内山精穀倉庫株式会社

代表者の氏名

代表取締役 内山昌久

(二) 氏名

内山明子

年齢

昭和六年八月一三日生

本籍

愛知県豊橋市東小田原町五三番地

住所

愛知県豊橋市牟呂町字扇田八一番地

職業

会社役員

(三) 氏名

内山昌久

年齢

昭和三〇年二月八日生

本籍

愛知県豊橋市東小田原町五三番地

住所

愛知県豊橋市牟呂町字扇田八一番地

職業

会社役員

検察官

川北哲義

弁護人(私選)

又平雅之

主文

被告人内山精穀倉庫株式会社を罰金二〇〇〇万円に、被告人内山明子及び被告人内山昌久をそれぞれ懲役一年に処する。

被告人内山明子及び内山昌久に対し、この裁判確定の日から三年間それぞれの刑の執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)

被告人内山精穀倉庫株式会社(以下、被告会社という。)は、愛知県豊橋市牟呂町字扇田八一番地に本店を置き、穀物類の加工、飼料の製造販売等を目的とする資本金四八〇〇万円の株式会社であり、被告人内山明子、同内山昌久は、被告会社の代表取締役として、それぞれ、同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人内山明子、同内山昌久は、共謀の上、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得の一部を秘匿した上、被告人山昌久において、

第一  平成三年四月一日から同四年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際の総所得金額が八七七六万六一〇三円であったにもかかわらず、平成四年六月一日、愛知県豊橋市大黒町一一一番地所在の所轄豊橋税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が四六三七万二二五七円であり、これに対する法人税額が一六〇〇万六九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額との差額一五五二万二七〇〇円を免れ、

第二  平成四年四月一日から同五年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際の総所得金額が一億〇四三七万二五〇一円であったのにもかかわらず、平成五年五月三一日、前記豊橋税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が三〇〇四万二五一六円で、これに対する法人税額が一〇一三万七二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額との差額二七八七万三七〇〇円を免れ、

第三  平成五年四月一日から同六年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際の総所得金額が八一七三万九三五三円であったにもかかわらず、平成六年五月三〇日、前記豊橋税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が一七七七万〇六一二円で、これに対する法人税額が五六六万四一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額との差額二三九八万八四〇〇円を免れた。

(証拠)

(括弧内の甲乙の番号は検察官の請求番号の略)

全部の事実について

1  被告人内山昌久の

(1)  公判供述

(2)  検察官調書二通(乙3、4)

2  被告人内山明子の

(1)  公判供述

(2)  検察官調書二通(乙1、2)

3  岡田守員の検察官調書(甲16)

4  吉村華一こと許華一の検察官調書謄本三通(甲19ないし21)

5  堀勉の検察事務官調書(甲17)

6  山本桂右の検察事務官調書(甲18)

7  伊東正の検察事務官調書(甲23)

8  吉村薫の検察事務官調書(甲24)

9  査察官調書六通(甲10ないし15)

第一の事実について

10  証明書(甲4)

第二の事実について

11  証明書(甲6)

第三の事実について

12  証明書(甲8)

(法令の適用)

1  罰条

第一ないし第三の各行為につき

被告会社

いずれも法人税法一五九条一項(情状によりさらに同条二項)、一六四条一項

被告人内山昌久、内山明子

いずれも法人税法一五九条一項、平成七年法律第九一号による改正前の刑法(以下、改正前の刑法という。)六〇条

2  刑種の選択(被告人両名)

いずれも懲役刑選択

3  併合罪の処理

被告会社につき

改正前の刑法四五条前段、四八条二項

被告人両名につき

改正前の刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い第二の罪の刑に法定の加重)

4  懲役刑の執行猶予(被告人両名)

改正前の刑法二五条一項

(量刑の理由)

一  本件の脱税額は、合計六七〇〇万円余りもの多額に上っており、ほ脱率も、約六八パーセントと、この種の事案としては相当高い。

また、犯行の手口・態様は、以下のとおり、巧妙かつ計画的で悪質である。すなわち、被告会社は、全農等から加工依頼を受けた玄米の一部を浮かせて他に業者に売却した代金を除外し、あるいは特定の取引業者から受け取る加工賃の一部を除外し、さらには運賃の水増しという方法で所得を秘匿しているのであるが、このような方法を採るにあたって、被告人両名は、取引会社と協議の上、分担を決め、かつ、従業員に指示して玄米の加工をストップさせて玄米を取り分け、それを取引会社に運搬させたり、玄米の加工の際に機械の破砕割合を変更させるなどした上、被告人両名が取引会社から裏金分の現金を受け取っていた。しかも、その際、正式な書類等を作成せず、取引内容を示すメモ、ファックス等は廃棄し、帳簿等には記載しないで脱税を重ねていた。

脱税した資金は、現金、無記名債券、従業員名簿の預貯金として隠匿、保管していたほか、一部を被告人両名の個人的な物品購入、旅行費用等に充てていた。

そのうえ、犯行の動機は、将来の経営危機に備えて資金を確保するというもので、身勝手なものであって、酌むべき点は認められない。

被告人内山明子は被告会社の会長として、被告人内山昌久は被告会社の社長として、いずれも本件脱税工作について主導的役割を果たしており(被告人内山明子は、さらに裏金の管理もしていた)、被告会社の従業員のほか、取引先関係者を巻き込んでおり、この点も量刑上無視できない。

二  他方、被告会社は、本税、延滞税、重加算税、地方税等全て納付していること、被告人両名は、いずれも本件各犯行を反省し、被告人内山明子は通常の業務からは手を引いていること、被告人内山昌久は、本件を機会に、今回のような犯罪の再発を防止するためには、被告会社の経理システムの改善をする必要があることを自覚して社内の体制を改め、税理士の関与を増やすなど改善措置を講じていること、被告会社と被告人両名には、前科がないこと等の酌むべき事情も認められる。

三  そこで、以上の諸情状を総合考慮して、被告会社を罰金二〇〇〇万円に、被告人両名をそれぞれ懲役一年に処すとともに、被告人両名に対し、それぞれ刑の執行を三年間猶予することとした。

(求刑 被告会社につき罰金二〇〇〇万円、被告人両名につきそれぞれ懲役一年)

(裁判官 久保豊)

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